新型コロナウイルスの時代のガルシア=マルケス『コレラの時代の愛』

カミュの『ペスト』(新潮文庫)がベストセラーになったのは新型コロナウイルスによるそうだが、その影響で私が再会したのはガルシア=マルケス『コレラの時代の愛』(木村榮一訳 新潮社)である。

この新型コロナウイルス流行の経験が、次の時代に良い影響を与えるはずだと信じたい。

オビの文「51年9ヶ月と4日、男は女を待ち続けていた……。」(ガルシア=マルケス全小説 初版2006年10月30日発行)からはロマンチックで美しい小説を連想するけれど、それだけでなく欲望とエネルギー満ち溢れる人間の生々しい臭いがとてつもない作品だと思う。

ラストは主人公とヒロインの乗船した川船がコレラのために行き先なく漂い、主人公が確信を持って船長に言う言葉が感動的で、川が永遠の流れへと繋がるのだった。

しかし個人的に最も記憶に残っているのは美しい場面ではなくて、主人公が51年9ヶ月と4日待ち続けた女性と夫との間におきた話しである。

「はじめて小便の音を聞いた男性は夫だった。新婚旅行でフランスに向かう船のキャビンで、(中略)馬の小便を思わせる力強い音を聞きながら、自分の身がもつだろうかと不安になった。」(『コレラの時代の愛』より)

その後夫婦の間でトイレをめぐり様々な諍いがつづき、夫は「家庭の平和を乱さない」よう便器を使用するたびに拭くという本人にとって「屈辱的な行為」をするのだが、最終的な解決法として「妻と同じように便器に座って用をたすこと」になる。

なぜこの箇所かといえば、その頃にある女性宅を訪ねトイレを借りた時に言われた言葉が読書中に思い出されたからであった。

「使用後は必ずフタを閉じて!」

便器のフタを閉めないでトイレから出た事に対しての女性のキツイ一発だった。

この小説を読んでからは主人公を見習って一歩進歩し(公共施設などの小便器前には《一歩前へ》と書いた貼り紙を頻繁に目にする)、《女性宅のトイレでは座って、音を出さずに用を足すこと》と私のルールブックには加筆された。

似たような経験をされた男性は多いのではないでしょうか? 

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