本を作っていて思わされるのは、文字や写真に収めた人の時間が結びつき、その先に本として表れるということだ。 そのことは自費出版で強く意識させられる。出版社での本を作る目的は作ることと売ることにあるのに対し、自費出版の多くは本を作ることそのものだけが目的となっているからである。
自費出版を希望する方との会話中、「自分史」という言葉をよく耳にする。しかし、その言葉に含まれているのは、「自費出版しませんか?」といった広告の一コマの狭隘に言葉を閉じ込めてしまっている気がする。 だから相談では、改めて「自分史」とは何かと伺ってみる。
創作であれイメージであれ、自分自身の生に依存せざるをえない感性を素通りしてしまうのは天才のみであって、普通では起こり得ないものだ。だから一般的に創作と呼べるものは、写真であれ絵であれ文章であれすべてについて「自分史」なはずである。
自分自身以外は知らない、知って欲しくない、知られたくない……など含んでいようがいまいが、それら行為のすべてを含めての「自分史」であることは、本人自身のみが知りうる自分史でもある。
新年2021年1月、森を散策。静けさは心地よく、そこには森の「自分史」も広がっている。 森の中には池があり、凍った水面の下には落葉が閉じ込められ、氷の上には周囲の木々と光が映りこんでいる。
池に向かいシャッターを押す。それぞれの人の「自分史」もそこを通過する。