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はじめから書ける人はいない
入稿とは作者が文や写真を出版社や印刷所へ渡すことです。
まずは書くことからはじまります。
プロの書き手ならともかく、書く事が日常にない人は、
「書くなんてムリ!」
この段階でピタッ。固まってしまった人は多いでしょう。
しかし冷静に今までの自分を振り返ってください。
はじめからできたことが今までどれほどあっただろうかと。
人間は「未熟な惑星」
『存在の耐えられない軽さ』で知られる作家ミラン・クンデラは、エッセー集『小説の精神』の中でこう書いています。
「わたしたち人間は、若さのなんたるかを知ることなく少年時代を去り、結婚の意味を知らずに結婚し、(中略)この意味で、人間の世界は未熟の惑星である。」
(金井裕・浅野敏夫 訳 『小説の精神』 法政大学出版会)より
振りかえってみればわたしたち人間には、何も知らぬまま入った世界のなんと多いことか。ほとんどと言っても過言でないかもしれません。
クンデラの言うように人間が「未熟な惑星」であるのなら、書くことを「ムリ!」だと思ってしまうのは当然なことでしょう。
また一方で、そんな「未熟な惑星」でありながらも、なんとかくぐり抜けて生きているのも人間だとも思えるのです。
本を「作る」「書く」というこの道も、今まで同様に通り過ぎゆく道なはずです。
「未熟」ではあっても「惑星」ではあるのですから。
本を書くには本から
カルチャーセンターや自費出版の説明会など、「文章の書き方」の講習は盛況なようですが、最良で手軽な「本を作る」教科書、それもやはり本です。
図書館などで手にとって、参考にしてはいかがでしょう。
以下に三冊選んでみました。
①『井上ひさしと114人の仲間たちの作文教室』(井上ひさしほか文学の蔵 編 新潮文庫)
②『縦横無尽の文章レッスン』(村田喜代子 朝日文庫)
③『日本語の作文技術』(本多勝一 朝日文庫)
「作文の秘訣を一言でいえば、自分にしか書けないことを、だれにでもわかる文章で書くということだけなんですね。」
井上ひさしほか文学の蔵 編 『井上ひさしと114人の仲間たちの作文教室』 新潮文庫)より
とにかく 書いてみませんか
細かいことの気にし過ぎから創造力の束縛や喪失がおきることだってあります。
技術も大切ですが、とにかく書いてみませんか。
最大のエネルギー、それは「書きたい」という情熱、意志、根気そして勢いの中にこそあるものです。
作家や映画監督などクリエイターのデビュー作が代表作の一つにあげられることが多いのも、燃えたぎるエネルギーこそが作品そのものであるからでしょう。
ギュンター・グラスの小説『ブリキの太鼓』の主人公オスカルは3歳で成長を止め、30歳の時に半生を物語りはじめます。
「さてどんなふうに始めよう?
物語は中途から始めて、思い切り前へ進んだり後に退ったりして混乱を引き起こしたっていいのだ。現代風に振る舞い、あらゆる時代や距離を抹消し、あとになって空間時間の問題は最後には解決されたのだと宣言するなり宣言させるなりすることもできる。(中略)
ぼくの生まれるずっと以前のことから始めよう。というのは自分がこの世に生を享けた日付を書きしるす前に、せめて祖父母の片方だけでも思いだす根気のない人間は、だれも自分の生涯を書きしるすべきではないからだ。」
(ギュンター・グラス 著 高本研一 訳 『ブリキの太鼓』 全3巻 集英社文庫)より
オスカルの書いたこの物語は、ギュンター・グラスのデビュー作です。